『私は淋しい人間です』と先生はその晩またこの間の言葉を繰り返した。『私は淋しい人間ですが、ことによるとあなたも淋しい人間じゃないですか。私は淋しくっても年を取っているから、動かずのいられるが、若いあなたはそうは行かないのでしょう。動けるだけ動きたいのでしょう。動いて何かにぶつかりたいのでしょう。・・・』
『私はちっとも淋しくはありません』
『若いうちほど淋しいものはありません。そんならなぜあなたはそうたびたび私の宅へ来るのですか』ここでもこの間の言葉がまた先生の口から繰り返された。
『あなたは私に会ってもおそらくまだ淋しい気がどこかでしているでしょう。私にはあなたのためにその淋しさを根元から引き抜いてあげるだけの力がないんだから。あなたはほかの方を向いて今に手を広げなければならなくなります。今に私の宅の方へは足が向かなくなります』
先生はこう云って淋しい笑い方をした。
こころ『夏目漱石』より
あらすじ
親友Kを裏切り恋人を得るも、Kが自殺しあっために罪悪感にさいなまれ、ついに自らも死を選ぶ『先生』という、
孤独な明治知識人の内面を描いた作品です。
『私』という学生の視点から間接的に『先生』を描く前半、『先生の遺書』と題され、『先生』自身の告白からなる後半に分かれている。
ここがオススメ!
過去の自分への罪悪感に、『先生』はさいなまれています。生きていれば、うしろめたい過去へのひとつくらいは誰にもあるものです。
それを告白するとき、自分ならどんな気持ちになるのか。
心に描いてみるのがいいですね。
最後の『淋しい笑い方』。この言い回しがいいですね。どんな笑い方で、具体的にどんな声のトーンになるのでしょう
か。想像しながら読んでみるのもいいでねす。

dav
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