健康あっての教師人生

⭐️教壇に立ち続けるために、『今』できること⭐️

ふらんす物語 永井荷風 JULY.8

蕉雨は答え得ずに五、六歩歩いて行ったが、依然として気のない声で、

『君はまだ経験に乏しい処がある。まア成功なら、成功でいい。人間の最大不幸は、その成功を意識した瞬間から始まる。と僕はそう思う。』

『奇論はよし給え。つまらんパラドックスは自分で自分を不幸にするようなものだ。』

『奇論でも空論でもない。僕は真実、そう感じているんだ。まア、君のいう通りに、僕の現在は人間並みに、成功したものと仮定して置こう。ニューヨークで商店の売子をしていた時分には、一週間に一度も画筆を取る事さえ出来なかったのが、フランスへ来るや否や、およそ画家のあこがれる夢という夢は、一時に実現された。いざ、何も彼も心のままになってしまうと、君、実に不思議なものだ、僕は棒で撲り倒されでもしたように、甚く勇気を挫かれたように感じてね、一方で現在の境遇をば幸福だ、うれしいと思えば思うほど、君、全く不思議だよ。厭で厭でならなかったニューヨークの逆境時代が、何となく恋しいようい思返されてきた。』

ふらんす物語 『永井荷風』著

あらすじ ふらんす物語 永井荷風著

 明治40年、永井荷風は4年間滞在したアメリカから、フランスへと渡る。フランス滞在の経験をもとに明治42年に刊行されたエッセイ風小説。荷風自身の憧れであるフランス文化の卓越した紹介であるとともに、日本への絶望を吐露する青春文学。初版は発禁処分を受けた。

【音読を楽しもう】

  世界中から天才芸術家が集まった当時のパリは、世界でもっとも文化が成熟した奇跡的な街でした。時代の空気感を想像しながら読んでみるとさらに味わい深くなるでしょう。

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